農業分野への応用
農業にスペクトル技術を応用した研究は主に北海道を中心にコメや麦で1980年代後半から行われてきた。農業リモートセンシングの分野では正規化植生指数(NDVI)と呼ばれる指標が植物の活性度(光合成能力)を反映していることが経験的に知られている。
農業リモートセンシングでは、基礎データとしてまず圃場に植えられている葉の先端部のスペクトルデータを採取し、その位置でのタンパク含有量や収穫量などをサンプリング的に測定し、衛星画像から得られるNDVI値との相関を求めておく。その関係式を全画像に適用することにより、コメであればタンパクマップを、小麦の場合には収穫予測マップを作成する。人工衛星にはフランスのSPOTやアメリカのIKONOS、最近ではQuick Birdなどが使われている。
一般に衛星画像から圃場を切り出す作業が実際には手間がかかると言われており、ここでは2種類の方法を紹介する。北海道で最初にタンパクマップ作成において本格的な取り組みがなされたか上川地区では、当時既にGISデータが整備されていたことが有効に働き、各農家の圃場別に農業指導が出来るところまで試みられた(残念ながら補助金が切れたことを期にこの取り組みは終了した)。
現在でも実験が進められている空知地区では、まず水田に水張りをした直後に衛星で中間赤外画像を撮影し、水の存在する領域だけを同定するための地図を作成する。次に8月最終週に圃場を撮影してNDVIのマッピングを行い、予め作成しておいた圃場エリアの上にNDVI値を切り出して貼っている。
いずれの方法でもデータ解析に多額の人件費がかかってしまうことと、衛星画像が非常に高価であることと(IKONOSでは一枚あたり200万円程度)、撮影リクエストが通りづらいことが農業現場での大きな課題となっている。しかし、新潟の越路町のように吟醸酒用にコメのタンパク含有量をコントロールする技術として衛星画像を積極的に活用し、国産米では最も高品質といわれている魚沼産のコシヒカリの2倍の利益を上げているところもあることから、これらの課題が解決できれば農業リモートセンシングはこれからの精密農業には欠かすことのできない技術となることは間違いない。


画像から推定した小麦の生育状況(音更周辺)。赤は倒伏、成熟の早い順から黄、緑、青で示す。
(提供:北海道立中央農業試験場 安積大治氏)
ハイパースペクトルカメラを用いた研究としては、北海道工業大学の三浦理恵が2005年に北海道立中央農業試験場との共同研究により小麦の生育とスペクトル画像との相関に関する研究を行った。彼らは内部の子実の状態がある程度、葉の表面に影響が出やすいことに着目し、葉の特徴点を抽出することによって中の実の状態をある程度予測できるものと考え、ハイパースペクトルカメラ(HSC)を利用した小麦の葉の分光反射スペクトルの影響を調査し、窒素の施肥の違いによる、蛋白含有率、葉緑素、総重量などの小麦の子実との関係を定量的に求めた。

2006年にJAふらのと佐鳥研究室との実験によれば、スペクトル特性の変化からメロンの収穫適期を予測できることがわかっている。通常、メロンは果実に直結している指標となる葉の枯れ具合とつたの付け根の色の変化から予測するといわれている。完熟期が近づくと葉に含まれる糖分が全て果実に流入するため、葉は急激に枯れ始め、それと同時に付け根部分に微妙な変化(普通の人には識別できない変化)が現われる。そこで、収穫適期とその5日前の状態をハイパースペクトルカメラで撮影し、スペクトル変化を測定した。
図3-4の鮮度換算値とは正規化植生指数(NDVI)の相対値であり、クロロフィルによる光合成量の指標である。個体差はあるものの、マクロな変化として葉のNDVI値の変化が確認された。また、付け根部分では特に近赤外域の反射率が収穫適期になると増大する現象が見られた。人間の目には識別するのが困難な波長帯ではあるが、農業現場の方々の判断指標となっている点は興味深い。

京都のフェアリー・エンジェルでは鮮度アシスト(光スペクトルでNDVI値を数値化する計測器)を用いて鮮度管理している。ハイパースペクトルカメラを用いれば生産管理にも応用できる可能性がある。
北海道滝川市にあるサークル鉄工はミスト農法による大葉の植物工場を運営している。同社は大葉の自動選別機の開発も手掛けており、未だ開発段階ではあるが、この装置の中に鮮度アシストを鮮度センサーとして組み込んでいる。

(出典:サークル鉄工およびフェアリー・エンジェルのHP)