食品の特徴的なスペクトルは主に近赤外域に現れることが知られている。近赤外法は1960年代に米国において盛んに研究された穀類の非破壊技術に関連して発展した技術である。当初、同法に関する研究は穀類を対象として水分、たんぱく質、脂質などの主要成分の迅速成分測定に関するものが主であったが、計測装置(ハード)及び解析方法(ソフト)の発展に伴い、測定対象品目は飲料、加工食品、青果物など色々な食品の他に、測定対象成分も主要成分の他、塩分、繊維、灰分、残留薬品など多様なものへと拡大した。
近年、わが国の食文化は多様化する一方で、一般の消費者は、青果物、及び畜産物などの食に対する安全性に強い関心を持っている。とりわけ食材の鮮度や味覚情報、可視化あるいは数値化して簡単に知ることが強く望まれてきている。また、消費者においては品質管理や食品としての安全性の確認のみならず。生産および流通技術面で鮮度や風味などに関する情報を生かすことも必要になってくる。
北海道工業大学の佐鳥研究室では、ハイパースペクトルカメラ(HSC)を利用した非破壊測定による分光スペクトルを用いて物理的な測定から、生鮮食品の鮮度評価を行っている。HSCを用いることにより、見た目に違いがなくても、数値的に判断することで食の安全・安心の客観的指標を与え、食品を等級化できるという利点につながる。
図4-1はHSC1700で撮影したキュウリの様子である。変化を際立たせるために、Rの波長域を反射率での変化の差が大きい730nmの波長に合わせてある。1日目は鮮やかな朱色であるが、鮮度が悪くなるにつれて、赤黒っぽくなっていくのが分かる。これは730nmつまりは全体的にも反射率が落ちていることを意味している。グラフを図4-2に示す。グラフから見ても鮮度に比例して反射率が下がっているのが分かる。
図4.1 キュウリのハイパースペクトル画像(擬似RGB表示)
(出典:北海道工業大学 佐鳥研究室)
図4.2 キュウリの分光反射スペクトル特性
(出典:北海道工業大学 佐鳥研究室)
同研究室ではプラムについても鮮度を数値化することができることが分かっている。一般的に、皮の薄い果実であれば同様な方法で数値化できる可能性が高いと言ってよい。
図4.3 プラムの鮮度とスペクトル変化(出典:北海道工業大学 佐鳥研究室)
ハイパースペクトルカメラによる鮮度測定の技術は野菜や果物に限ったものではなく、肉や魚(切り身)にも応用できることが分かっている。詳細については2005年度の三浦理恵の修士論文を参照して頂きたい。
古くから知られる方法として、キュウリの場合にはブラックライトで紫外線を照射すると図4-2の近赤外域での反射率の変化を可視化することができる。鮮度が良いときには真っ赤に光るのに対し、冷蔵庫に保存するなどして鮮度が落ちてくると、劣化した部分が黒ずんで見えるのである。同様な方法で生卵の鮮度を評価できることが分かっている。その一例を図4-5に示す。
図2.3 紫外線によるキュウリの鮮度の可視化
(出典:「食品の非破壊計測ハンドブック」)
図4.4 紫外線照射による生卵の鮮度の可視化
(出典:「食品の非破壊計測ハンドブック」)
2005年度の北海道工業大学佐鳥研究室の成果として、農業リモートセンシングで用いられるNDVIを光合成活性度の指標として用いれば(正確にはNDVI相対値)、葉もの野菜の鮮度変化を追跡することができることを示した。2006年にはその技術を実用レベルまで向上させることに成功した。
図4.56~図4.7に鮮度計測器の写真および鮮度評価の結果を示す。鮮度計測器の詳細については出典のHPを参考にして頂きたい。この計測器の場合、ハイパースペクトルカメラを用いて、鮮度計測に必要な波長と、野菜の計測部位を同定し、その結果をモノづくりに反映させることにより開発期間の短縮に成功したことに着目する必要がある。ハイパースペクトルカメラおよび鮮度測定器を用いて、保鮮用特殊フィルムの保鮮効果を評価した事例を図4-8に示す。
図4.5 鮮度計測器(出典:http://www.ebajapan.jp)
図4.6 鮮度計測器の評価結果
(出典:北海道工業大学 佐鳥研究室)
図4.7 特殊フィルムの保鮮効果
(出典:北海道工業大学 佐鳥研究室)
鮮度という目に見えない概念を数値化するという意義は、その関連分野を考えると計り知れない波及効果があることから、それを総括的に分析できるハイパースペクトル技術の潜在性を想起させる。
事実、この技術に対する問い合わせは、花き市場、農産物の収穫適期予測をこれまでの勘頼りから数値化できることへの期待による農協など農業生産者市場、スーパーマーケットへの保鮮フィルムや保鮮効果のあるパックを販売している業者および様々な効果をうたっている肥料メーカーが自社商品の効果を客観的に証明することへの期待からの新規市場が急速に成長し始めている。この技術は北海道新聞、読売新聞、日刊工業新聞等だけではなく、日本農業新聞、農経新聞、(社)農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)のニュースレター、(社)日本施設園芸協会など専門誌に多数取り上げられた。
鮮度以外にもたとえば、スペクトル分析を用いてメロンの糖度分布を可視化した研究例もある。図4-9に事例を紹介する。
図4.8 メロンの糖度分布の可視化
(出典:「食品の非破壊計測ハンドブック」